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一年分の領収書をまとめていて、ふと「これは確定申告で医療費控除の対象になるのではないか」と思うことがあります。AGA治療は自由診療で費用がかさみやすく、確定申告の時期が近づくと領収書を見返す人も少なくありません。
検索して調べてみると、「AGA治療は医療費控除の対象です」と言い切るサイトと、「対象外です」と言い切るサイトの両方が見つかります。どちらも国税庁の情報を根拠にしているように見えるため、どちらを信じればよいのか分からなくなってしまいます。
この記事が確認するのは、「対象になるか、ならないか」という答えそのものではありません。国税庁が実際に何を公表していて、何については触れていないのか、その事実を1つずつ確認していきます。
そのため本記事では、確認できたことと確認できなかったことを分けて書きます。断定できる材料がない箇所では断定しません。ご自身の状況にどうあてはめて考えるかの手がかりとして読み進めてください。
この記事でわかることと、扱わないこと
本記事が扱うAGA治療は、公的医療保険が適用されない自由診療です。効果や副作用の感じ方には個人差があり、処方は医師の診察・判断のもとで行われます。
この記事で扱うのは、次の3点です。
- 国税庁が医療費控除についてどのような一般的な基準を公表しているか
- その基準のなかで、AGA治療をどう考えることになるかという整理の仕方
- 確定申告の手続きの流れと、控除額の計算方法(一般形)
一方で、次の3点はこの記事では扱いません。
- 読者一人ひとりのケースが医療費控除の対象になるかどうかの判断。本記事は国税庁が公表している情報にもとづく一般的な制度の解説であり、個別の税務相談ではありません
- 特定のクリニックでの治療内容や料金の紹介
- 還付額や納税額を試算する個別のシミュレーション
実際に1年間でいくら支払うことになるのかは、別の記事で9院分を並べています。
国税庁はAGA治療を名指ししていない
国税庁は、AGA治療の費用が医療費控除の対象になるかどうかを名指しで示していません。対象になるかどうかは、「治療を目的として支払った費用か」という一般的な基準に、どうあてはまるかで判断されることになります。
国税庁のタックスアンサーのうち、医療費控除を解説しているNo.1120「医療費を支払ったとき」とNo.1122「医療費控除の対象となる医療費」を確認しました。No.1122には、医師による診療・治療の対価、治療または療養に必要な医薬品の購入の対価のほか、入院費用、あん摩マッサージ指圧師・はり師等による施術の対価、通院費、医療用器具の購入費用などが具体的に列挙されています。そのいずれにも、AGA・薄毛・育毛・発毛・美容整形といった語は登場しません。
確定申告書等作成コーナーにも「医療費控除の対象になるか具体例で確認する」というページがあり、かぜ薬の購入費用、人間ドックの費用、歯の治療費、不妊症の治療費や人工授精の費用など14項目の具体例が挙げられています。ここにも、AGA・薄毛・育毛・発毛に関する項目は含まれていません。
ただし、これはこの一覧ページに掲げられた項目のなかに見当たらなかった、という確認です。国税庁のサイト全体を隅々まで調べ尽くした結果ではありません。この限定はふまえておいてください。
「対象です」あるいは「対象外です」と言い切って説明しているサイトもありますが、その根拠となる国税庁の名指しの見解は、今回の確認では見つかりませんでした。断定的に書く記事と、AGAには触れずに一般論だけで済ませている記事とに分かれている、というのが実際のところです。本記事では、確認できた事実にもとづいて、どちらとも断定しない立場を取ります。
医療費控除の対象となる医療費の一般的な要件
国税庁が示している医療費控除の対象となる医療費には、共通していくつかの要件があります。
- 自己または生計を一にする配偶者・親族のために、その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費であること
- 医師または歯科医師による診療または治療の対価であること(健康診断の費用や医師等への謝礼金は、原則として含まれません)
- 治療または療養に必要な医薬品の購入の対価であること。国税庁は、風邪薬などの購入代金は医療費となる一方、ビタミン剤など病気の予防や健康増進のために用いられる医薬品の購入代金は医療費とならない、と示しています
- その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額であること
AGA治療の費用についても、国税庁が公表しているのはこの一般的な枠組みまでです。以降の章は、この4つの要件を起点に考えていきます。
「治療のため」と「美容のため」はどう分けられているか
国税庁が一般原則として置いているのは、支払った費用が治療または療養のためのものか、それとも予防や健康増進のためのものか、という軸です。
この「目的による線引き」がどう働くかを具体的に示した例として、国税庁のタックスアンサーNo.1128「医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」に、歯列矯正についての記述があります。
発育段階にある子供の成長を阻害しないようにするために行う不正咬合の歯列矯正のように、歯列矯正を受ける人の年齢や矯正の目的などからみて歯列矯正が必要と認められる場合の費用は、医療費控除の対象になります。しかし、同じ歯列矯正でも、容ぼうを美化するための費用は、医療費控除の対象になりません。
ここからは、同じ施術であっても目的によって扱いが分かれる、という考え方が読み取れます。ただしこれは歯の治療費についての国税庁の記述であって、AGA治療について述べたものではありません。ここから直接AGAについての結論を導けるものではない、という限定をつけたうえで、考え方の枠組みとして紹介しています。
なお、国税庁が要件として置いているのは「医師または歯科医師による診療または治療の対価」であることで、公的医療保険が適用される治療かどうか、という条件は置かれていません。「保険が使えない自由診療だから対象外」という区分けが国税庁の記述にあるわけではない、ということです。ただし、これは「自由診療なら対象になる」という意味でもありません。見られているのは、あくまで治療または療養のための支出かどうかです。
AGA治療にあてはめて考えるときの視点
ここから先は、国税庁が名指しで示した結論があるわけではありません。ご自身の状況を確認するための視点を並べます。特定の結論に誘導するものではありません。
視点1: 医師の診察・処方にもとづく治療の対価かどうか
国税庁が要件として置いているのは「医師または歯科医師による診療または治療の対価」であることで、その診療が対面かオンラインかによって分ける記述は置かれていません。確認できるのはここまでです。オンライン診療で処方された薬の代金が実際にどう扱われるかを、本記事で断定することはできません。
視点2: 処方薬か、自分で購入した医薬品か
国税庁は、治療または療養に必要な医薬品の購入の対価を対象とし、予防や健康増進のために用いられる医薬品の購入代金は医療費とならない、と示しています。医師の処方にもとづくものか、ドラッグストア等で自分の判断で購入したものかは、この線引きを考えるうえでの手がかりの1つになります。ただし、購入の形態だけで決まるとは限りません。
処方される薬そのものにも、料金ページ上で複数の系統が並んでいることがあります。表記の違いと読み方は、別の記事で整理しています。
視点3: 脱毛の原因をどう捉えるか
世間では、AGAは加齢や体質によるもので、治療目的とは扱われにくいとする説明が多く見られます。ただし、これは国税庁が示した見解ではありません。あくまで一般に流布している見方の1つとして紹介しています。
視点4: 診断書・処方箋・領収書の記載内容
治療内容や目的が分かる形の書類を受け取っておくことは、後から確認を求められたときの判断材料になり得ます。領収書に記載されている項目名や、処方箋に記載されている薬剤の情報も、同じように判断材料の1つになり得ます。
以上はいずれも一般的な整理であり、実際にどう扱われるかは個々の状況と所轄税務署の判断によります。本記事は、対象になる・ならないのどちらか一方の結論に読者を誘導するものではありません。
控除される金額はどう計算するか
国税庁が示している医療費控除額の計算式は、次のとおりです。
医療費控除額 =(その年に実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補填される金額)−(10万円。ただし、その年の総所得金額等が200万円未満の場合は総所得金額等の5%)
控除額は最高200万円です。
ここで示したのはあくまで一般形の式であり、具体的な金額をあてはめた計算例はこの記事では示しません。また、この式で計算されるのは所得から差し引かれる金額であって、還付される税額そのものではありません。実際にいくら還付されるかは所得税率など他の要素によって変わるため、10万円を超えた分がそのまま戻ってくるわけではない、という点には注意が必要です。
「実際に支払った医療費の合計額」を把握するには、まず年間でどれくらいの費用がかかっているかを知る必要があります。この点については、9院の年間の薬代を同じ条件で並べた記事で扱っています。
初月と2ヶ月目以降で請求額が変わる料金設定もあるため、1年分を数える前にその型を知っておくと合計を出しやすくなります。
確定申告の手続きの流れ
医療費控除を受けるための手続きは、国税庁の説明にもとづくと次のような流れになります。
- 1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費の領収書をもとに、「医療費控除の明細書」を作成する
- 作成した明細書を確定申告書に添付し、所轄の税務署に提出する
- 加入している医療保険者から医療費通知を受け取っている場合は、それを添付することで明細書の記載を簡略化できる
- 医療費の領収書そのものは提出不要ですが、確定申告期限等から5年を経過する日までの間、提示または提出を求められる場合があるため保管しておく
領収書は、診療内容や支払日が分かる形で保管しておくと、後から確認が必要になった際にも対応しやすくなります。1年分をまとめて確認するのは手間のかかる作業のため、受け取るたびに1か所にまとめておくなど、日頃の管理方法を決めておくと、確定申告の時期になって慌てずに済みます。
判断に迷うときの相談先——この記事が答えられないこと
本記事は、国税庁が公表している情報にもとづく一般的な制度の説明であり、読者個別の状況について「対象になる」「ならない」を判断するものではありません。個別の税務相談ではありません。税理士法により、税理士でない者が個別の税務相談に応じることはできないためです。
判断に迷う場合の相談先としては、次のような窓口があります。
- 所轄の税務署の窓口
- 国税庁の電話相談センター
- 税理士
特定の税理士事務所や税務相談サービスへの案内は、この記事では行いません。
行動として1つできることを挙げるとすれば、治療を受けているクリニックに、診療内容や治療目的が分かる形の書類(診断書等)を発行してもらえるかどうかを確認しておくことです。これは、後から判断材料が必要になった場合に備えるためのものであり、発行してもらうこと自体が控除を約束するものではありません。
よくある質問
Q. AGA治療の費用は医療費控除の対象になりますか
対象になるかどうかは、治療の目的や個々の状況によって判断が分かれます。国税庁はAGA治療を名指しした見解を示しておらず、本記事でも断定はしません。「対象です」「対象外です」と言い切って説明しているサイトもありますが、その根拠となる国税庁の名指しの見解は確認できていません。詳しくは「国税庁はAGA治療を名指ししていない」の章をご確認ください。
Q. オンライン診療で処方された薬の代金も同じように考えられますか
国税庁が要件として置いているのは「医師または歯科医師による診療または治療の対価」であることで、診療が対面かオンラインかで分ける記述は置かれていません。ただし、個別の扱いを本記事で断定することはできません。判断に迷う場合は税務署や税理士にご確認ください。
Q. ドラッグストアで買った発毛剤も対象になりますか
国税庁は、病気の予防や健康増進のために用いられる医薬品の購入代金は医療費とならない、と示しています。ドラッグストアで自分の判断で購入したものがこれにあたるかどうかは、購入の目的や状況によって見方が変わり得ます。
Q. 医療費控除はいくらから申告できますか
支払った医療費の合計額から、保険金などで補填される金額と10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を差し引いた金額が控除の対象になり、控除額は最高200万円です。具体的な金額をあてはめた計算は本記事では行っていません。
Q. セルフメディケーション税制とは違うものですか
別の制度です。セルフメディケーション税制は通常の医療費控除の特例で、両者は選択適用となり併用できません。対象は特定一般用医薬品等購入費で、購入費の合計額から12,000円を差し引いた金額(最高88,000円)が控除額となります。適用には、健康診査や予防接種など一定の取組を行っていることが要件です。対象となるのは、令和8年12月31日までに支払った購入費です。
出典と確認日
- 国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm (確認日: 2026年8月13日)
- 国税庁 タックスアンサー No.1122「医療費控除の対象となる医療費」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm (確認日: 2026年8月13日)
- 国税庁 タックスアンサー No.1128「医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm (確認日: 2026年8月13日)
- 国税庁 タックスアンサー No.1129「特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm (確認日: 2026年8月13日)
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「医療費控除の対象になるか具体例で確認する」 https://www.keisan.nta.go.jp/r1yokuaru/cat2/cat22/cat221/ocat324/index.html (確認日: 2026年8月13日)
- 税理士法第52条(税理士業務の制限) https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237 (確認日: 2026年8月13日)
本記事の税制に関する記述は、上記の国税庁が公表している情報のみを出典としています。
上記のうち確定申告書等作成コーナーの具体例ページについては、一覧に掲げられた項目のなかにAGA・薄毛・育毛・発毛に関する項目が無いことを確認したものであり、国税庁のサイト全体を網羅的に調べた結果ではありません。
税制は改正されることがあります。申告の際は、国税庁のサイトで最新の情報を確認してください。
更新履歴
このページの内容を修正した場合は、修正した日付と内容をここに記録します。税制改正にともなう記述の更新も、訂正と同じように記録します。
- 2026年8月13日: 公開
